ソロの順番が回ってくるのは、1曲のうちほんの数十秒です。テーマがあって、何人かがソロを回して、またテーマに戻る。その間ずっと、自分の楽器は音を出しています。セッションで長いのは、自分がソロを弾いている時間ではなく、誰かのソロを支えている時間のほうですよね。
それなのに、家で練習してきたのはソロのフレーズだけ、ということが起こります。ソロじゃない時間に何を弾いていればいいのか、そもそもどこから入ればいいのか。ここでは、セッションマップに掲載されている今後の開催 1,364回のホスト表記から読み取れる実データと、公開されている一次ソースの記述を分けて並べながら、その時間の中身を整理していきます。
ソロじゃない時間に、自分は何をしている人なのか
ジャズで伴奏を指す「コンピング」という言葉があります。ジャズギタースタイルマスターは、コンピング(comping)の語源が accompany(伴奏する)であり、ジャズではバッキングのことをコンピングと呼ぶ、と説明しています。そのうえで、実際のコンピングでは、アドリブしている人の音を聴いて、いかに心地よくアドリブしてもらうかを意識しながら演奏することが大切だ、と書かれています。
つまりバッキングの評価軸は、自分がどれだけ弾けたかではなく、ソロを取っている人がどれだけ動きやすかったか、という別の場所にあります。ここが分かると、ソロじゃない時間はただの待ち時間ではなくなりますよね。
同じことを、ジャズ初心者向けのジャムセッション解説サイト JAM活は、コード楽器の側からもっとはっきり書いています。コードを弾いて伴奏する、それがコード楽器最大のお仕事である、と。そして、アドリブ・ソロはまだできなくても構わない、アドリブ勉強中の人も積極的にセッションに足を運んだらよい、とも書かれています。ソロが完成していない状態でも現場に立てる根拠が、ここにあります。
バッキングには「埋める役」と「作る役」の2つがある
バッキングを一言で言うと難しいのは、実際には正反対に見える2つの仕事が同居しているからです。
ひとつは、隙間を埋める役。音が薄いところに厚みを足して、曲の輪郭が消えないようにする仕事です。誰かがコードの土台を鳴らし続けていないと、ソロを取る人は自分がいまどのコードの上にいるのか見失います。
もうひとつは、あえて隙間を作る役。すでに十分に鳴っている場所から、自分の音を引く仕事です。ソリストがフレーズを置くための余白を空ける、と言い換えてもいいと思います。
厄介なのは、この2つに固定の担当がないことです。同じ楽器・同じ人が、その日の編成によって、曲の中の場所によって、役を行き来します。上手い人ほど弾いていない時間が長く見えるのは、作る役に回っている時間が長いからですね。
そして「今日の自分はどちらから入るのか」は、感覚ではなく、行く前に分かります。隣に誰が座っているかで決まるからです。
どちらの役から入るかは、隣に誰が座っているかで決まる
セッションマップは掲載244会場のうち、今後の開催 1,364回・120会場を持っています。そのうちホスト名の記載がある回が 715回・74会場、さらにパートの略号まで読み取れる回が 634回・62会場・22都府県 です。この634回について、自分が着く前からコード楽器(鍵盤・ギター)が座っているかどうかを数えました。
| 自分が入る前のコード楽器 | 回 | 割合 | 会場 |
|---|---|---|---|
| 鍵盤かギターのどちらかが座っている | 547 | 86% | 60 |
| 鍵盤だけ | 350 | 55% | 50 |
| ギターだけ | 120 | 19% | 21 |
| 鍵盤とギターの両方 | 77 | 12% | 17 |
| どちらも読み取れない | 87 | 14% | 20 |
これは表記の集計であって、当日そのパートが何人いたかを数えたものではありません。略号の読み方そのものはホストの担当楽器を扱った記事にまとめてあります。
数字が示しているのは、コード楽器で参加する場合、86%の回では自分より先に誰かがコードを鳴らしているという現場の初期条件です。つまり、コード楽器の初期設定は「埋める役」ではなく「作る役」のほうになります。厚みを足しに行くと、多くの回で足しすぎになります。
鍵盤とギターが最初から同席する回も 77回・17会場あります。この回は、コード楽器2本がどう住み分けるかがそのまま演奏の質になります。ギターの側の具体的な作法はギターのセッションデビュー記事、鍵盤の側はピアノのコンピング入門にそれぞれ書いてあります。
一方で、コード楽器が読み取れない回も 87回・20会場あります。この回に鍵盤やギターで入ると、役は反転します。自分がコードの土台そのものになるので、間引くより先に、コードが途切れないところまで埋めるほうが機能します。
ホスト側が1〜2パートしかいない回が、半分あります
同じ634回を、読み取れたパートの数で分けると、もうひとつ違う景色が出てきます。
| 読み取れたパート数 | 回 | 割合 |
|---|---|---|
| 1パート | 164 | 26% |
| 2パート | 164 | 26% |
| 3パート | 177 | 28% |
| 4パート | 104 | 16% |
| 5パート | 25 | 4% |
1〜2パートしか読み取れない回が合わせて 328回、全体の52%です。ホスト側が少ない回は、集まった参加者でバンドの形を作っていくことになります。この日は、埋める役から始まります。
リズム面でも同じことが起きます。634回のうち、ベースとドラムが両方読み取れる回は 240回(38%)で、ドラムが読み取れない回は 359回・47会場(57%)あります。ヤマハの楽器解体全書は、ドラムを「サウンド全体をがっしりと支える、リズムの主役」と表現しています。その主役の席が空いている回では、拍の位置を示す仕事がコード楽器とベースの側に寄ってきます。パート別の役割の全体像はパート別ガイドに、リズム隊の側の話はベース初心者のデビュー記事とドラム参加者向けの記事にまとめてあります。
「作る」側で減らすのは、音数よりも重なり
隙間を作る、と聞くと音を減らす話に見えますが、一次ソースが書いているのはもう少し具体的です。
JAM活のコード楽器編は、適度に弾く回数を間引き、裏拍も交えたリズムで弾くとよい、と書いています。さらに、コードの3度の音と7度の音(これらをガイド・トーンと呼びます)を中心として弾くほうがジャズらしくなる、とも書かれています。
音楽メディア ARBAN のジャムセッション講座は、もっと直接的です。ベーシストがFを弾くから、ギターは「F」を弾かない。F・A・C をジャーンと弾くのはジャズの世界ではNGで、セブンスやナインスといった音を使う、という説明が載っています。
この2つを並べると、減らす対象が見えてきます。減っているのは音数そのものではなく、他の人とぶつかっている重なりです。根音はベースがすでに鳴らしている。拍の頭はドラムがすでに置いている。同じ音を、同じ音域で、同じタイミングで2人が鳴らしたところは、厚みではなく濁りになります。3度と7度が残るのは、そこが誰とも重なっていないからですね。
裏拍から入るのも同じ理屈です。表拍が埋まっているなら、空いているのは裏側です。用語そのものが分かりにくいときはセッション用語集を先に開いておくと、当日の会話が追いやすくなります。
最初の一音を、どこから入れるか
ここまでの内容を、当日の順番に並べ直すとこうなります。
- 曲が始まる前に、告知やホスト欄に書かれた編成を見て、コード楽器が自分より先に座っているかどうかを確かめます。
- 最初の1コーラスは弾かずに聴いて、ドラムのハイハットとベースの音がどの位置に置かれているかを確かめます。
- コード楽器が先にいる回は、根音を弾かずに3度と7度から音を置き、弾く回数を間引いて裏拍側から入ります。
- コード楽器が自分だけの回は、拍の頭をはっきり示して、コードの輪郭が切れないところまで音を足します。
- ソリストがフレーズを動かしている小節は空けて、ソリストが息を継いだ小節に自分の音を足し、また元の役へ戻します。
2番目の「1コーラス聴く」が効くのは、隙間の位置がその日のメンバーによって毎回違うからです。同じ曲でも、ドラムが後ろ寄りに置く日と前寄りに置く日では、空いている場所が変わります。
自分の役が合っているかを、その場で確かめる
FTJS! のジャムセッション講座は、セッションで必要なドラマーの能力として、曲のメロの運びやアレンジの展開を大まかに把握してストーリー展開を組み立てられる構成把握力、テンポキープ、さまざまなリズムパターンへの対応、そして音量の差をかなり幅広く付けられること、を挙げています。「歌心のわかるドラマーになろう」という言葉も出てきます。
音量の幅は、ドラム以外の楽器にもそのまま当てはまります。役が「作る」側に回っているのに音量だけ据え置きだと、隙間を空けたつもりの場所が埋まったままになります。
フロント楽器の側も同じです。JAM活のフロント楽器編は、管楽器に求められることとして、アドリブより先に、ドラムやベースやピアノとリズムを合わせてテーマを演奏できることのほうがはるかに重要だ、と書いています。テーマを合わせるのも、他の人の置いた位置に自分を合わせる作業ですよね。
そして、役を全体として調整している人が現場にいます。ARBAN の講座は、ホスト奏者を、目配せなどで指示を出して全体を整えていく指揮者であり、ソロが長くなった人に区切りを告げる審判であり、その日をみんなが楽しく遊べるように立ち回る司会者だと表現し、「交通整理みたいな仕事」と書いています。参加できる演奏レベルについても、「枯葉」とブルースなど2〜3曲弾ければ問題ない、としています。
自分の役が合っているか分からないときに、ホストの目配せが答えになることは多いです。判断を全部ひとりで抱えなくていい、というのは、はじめて行く日にはけっこう大きいところだと思います。
参考・出典
- セッション参加に最低限必要な演奏レベル——コード楽器編(JAM活) — コードを弾いて伴奏することがコード楽器最大の仕事/弾く回数を間引き裏拍も交える/ガイド・トーン(3度・7度)を中心に弾く
- セッション参加に最低限必要な演奏レベル——フロント楽器編(JAM活) — アドリブより、リズムを合わせてテーマを演奏できることのほうがはるかに重要
- 初心者が知りたいジャムセッションの心得③|楽器別の留意点(ARBAN/納浩一) — ベーシストが根音を弾くのでギターは根音を弾かない/三和音をそのまま鳴らさずセブンスやナインスを使う
- 初心者が知りたいジャムセッションの心得②|参加できる演奏レベルとやってはいけないこと(ARBAN/納浩一) — ホストは指揮者・審判・司会者であり交通整理の役割/2〜3曲弾ければ問題ない
- ジャズギタースタイルマスター|ジャズ・ブルースのコンピング — コンピングの語源は accompany/アドリブしている人の音を聴き、心地よくアドリブしてもらうことを意識する
- セッションで必要なドラマー的能力(FTJS! ジャムセッション講座 ON LINE) — 構成把握力・テンポキープ・音量の差を幅広く付けられること・歌心
- ドラム|楽器解体全書(ヤマハ株式会社) — ドラムはサウンド全体をがっしりと支えるリズムの主役
編成が事前に分かる回から選んでみると、当日どちらの役から入るかを決めた状態で行けます。ジャズセッションの一覧から、ホストの編成と開催日をまとめて確認できます。